Vol.11

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issue1エッセイ
〜Amiの独り言〜 -
issue2築30年以上の木造軸組構造を狙え!
いざ、中古住宅のリノベーションへ
エッセイ
〜Amiの独り言〜
今の暮らしは、「完成」ではないのかもしれません。
家を建てたとき、あるいは購入したとき⸻その瞬間がゴールのように感じても、実際の暮らしは、いつも動いています。家族が増える。
仕事が変わる。親と暮らすようになる。子どもが独立する。
ものが増え、動線が変わり、気づけば「この家、ちょっと合わなくなってきたかも」と感じる瞬間が訪れます。それはきっと、「つくりなおす」サインかもしれません。


わたしは、疑問を持っていました
――「壊れることが前提の家」にみんな住んでいる?
「家って、そんなに早く壊れるものなの?」
15年前、実家の工務店に入社したばかりの私は、業界の先輩たちの話を半信半疑で聞いていました。
「30年も経てば住宅はスクラップ&ビルド」だと。
そう語るのは、当時の住宅業界をリードしていた経営者の方々。住宅は大体30年でスクラップ&ビルドで新築が立つ、と。でも私は、どうしても納得できませんでした。家って、長く住み続けるもの。そんなに簡単に壊れるわけがないし、なぜ30年程度で建て替えてしまうのか理解できずにいました。
家って、何十年も住むためのもの。そんなに簡単に壊れるわけがない。そう信じていたのです。
それから月日が流れ、現場でたくさんの家を見てきました。特に、1970年代から1990年代に建てられた住宅たち。一見しっかりしているように見えても、住宅の劣化、断熱の弱さ、住みにくくなった間取りや仕様――当時の常識で建てられた家が、いまの暮らしに合わなくなっている現実に、何度も直面しました。そのたびに、かつての疑問が少しずつ変わっていきました。「家に寿命がある」ということは、決して〝壊れる〞ことを前提にしているのではなく、暮らしが変われば、家も変わるという前提なのだと。
あの頃の「ありえない」は、今では「そうかもしれない」に。そして今、「やっぱりそうだった」と実感しています。私たちは、「壊れたから終わり」ではなく、なおして、つくりなおして、住みこなしていく住まいのあり方を、もう一度見直すときに来ているのだと思います。


暮らしは変わったけど、柱と梁があれば何とでもなる
――軸組には、余白がある
ふと30年前の暮らしを思い出すと、懐かしさよりも「ずいぶん変わったなあ」という実感が先に立ちます。
スマホもなければ、家電製品も限られていて、間取りは「4LDK」みたいな表記が一般的。親世代と同居するのが当たり前で、働き方も「朝から晩まで会社」が標準でした。でも今は違います。ひとり暮らしや夫婦のみの世帯が増えて、在宅勤務やワークスペースが必要になったり、家事の仕方も家電やネットに大きく助けられています。家族の形も時間の使い方も、30年前とはまるで違う。あの頃に戻れるわけではありません。だけど、多くの人が――私自身も含めて――その変化に合わせて、家そのものを変えるという発想は、なかなか持ちづらいものです。
「今の暮らしには合わないけど、まあ我慢すれば住めるし」「建てたときは良かったけど、今はちょっと…」そんな声をよく耳にします。でも、あきらめなくてもいいと思う。日本の木造住宅の多くは、「在来軸組構造」といって、柱と梁が軸になってできています。この構造には、〝余白〞がある。壁を抜いて空間を広げたり、間取りを変えて動線を見直したり、暮らしに合わせて柔軟に手を加えることができるのです。
新築するよりずっと身近で、でも確かな手応えを持って、家に〝今〞を取り入れていける。
そんなふうに暮らしをつくっていけたら、住まいはもっと頼もしい味方になってくれるはずです。


中古を選ぶ賢さと楽しさ
――「家を持つ」という考え方が変わった?
ひと昔前まで、家を建てるといえば「新築」が当たり前だったように思います。それが夢であり、目標であり、ある種のステイタスでもありました。
でも最近は、少しずつ価値観が変わってきているのを感じます。「最初から新築じゃなくてもいい」「中古住宅を自分たちらしく整えて住みたい」――そんな声が、私たちの工務店にも届くようになりました。たとえば、小さなお子様がいらっしゃるご家庭で、中古住宅を購入し、500万円ほどかけてリフォームされたお客様もいらっしゃいました。決して「妥協」ではなく、「暮らしに合う家を見つけて、自分たちの色に変える」という前向きな選択だったのが印象的でした。
新築一択だった時代から、「中古もありだよね」という選択肢がごく自然に受け入れられる時代へ。住まいを持つことが〝夢のゴール〞ではなく、暮らしをつくる〝スタート〞になっているように感じます。
人生100年と言われるいま、私たちは何度でも住まいと向き合うことができます。家も暮らしも、ずっと同じでなくていい。むしろ、ライフステージや価値観の変化に合わせて、賢く、柔軟に変えていくほうが自然です。
〝中古〞という言葉に、かつてのようなネガティブな響きはありません。それはむしろ、〝今〞の自分たちに合った家を、自分たちの手でつくっていくための、ひとつの自由な入り口なのです。


凹んだ時がチャンス!
――インスピレーションは外界から
リフォームやリノベーションって、どこから手をつけたらいいか分からない…そう感じることって、ありませんか?特に、忙しい日々に追われていたり、何となく気分がのらないときは、住まいのことは後回しになりがちです。
でも、そんな「ちょっと凹んでる」時こそ、実はチャンスかもしれません。
私自身、モヤモヤしているときこそ、ふらっとニトリや無印良品を歩いてみるようにしています。目的がなくてもいいんです。「この収納ボックス、押し入れに合いそう」「ここに棚を付けたら動線が良くなるかも」そんなふうに、生活の中で後回しにしていたことが、ふいに〝やってみたい〞に変わる瞬間があるんです。
住まいづくりにおいて、大きなリフォームや構造変更だけが正解じゃありません。ちょっとした整理整頓や収納の工夫からだって、暮らしは変わる。インスピレーションは、案外そんなところに転がっているのだと思います。大げさに構えなくてもいい。まずは外に出てみる。刺激を受けてみる。できれば、いつでもメジャーを持ち歩くといいですよ。気になった棚のサイズを測れますし(笑)
暮らしの改善は、いつだって小さな「気づき」から始まります。そしてその気づきは、家の外にあることが多い。ちょっと気が向かないときこそ、ぜひ外に出てみてくださいね。


つくる・なおす・すみこなす
――オルタナティブなライフステージへ
持ち家に暮らしていると、どうしても〝もの〞は増えていきます。
あれも必要、これも思い出――そうして収納はいっぱいに、納戸は〝なんでも突っ込む部屋〞になりがちです。そして気づけば、「ここ、どうにかしたいな」という場所がいくつも出てきて、でも日々の忙しさにまぎれて、見て見ぬふり。
子どもがいる家庭ならなおさらです。子どもが育つまでは、ものは増え続ける宿命みたいなもの。片付けもリフォームも、「そのうち落ち着いたら…」と思って先送りしている人、多いのではないでしょうか。
でも、引越しの予定がないなら、自分でタイミングをつくるしかありません。たとえば、子どもが独立したとき。あるいは、仕事を変える、働き方が変わる、そんな転機もきっかけになります。
そういえば誰かが言ってました。「人生を変えるには、住む場所を変えるか、働き方を変えるか、付き合う人を変えることだ」って(笑)
だったら、住まいを見直すことは、まさにオルタナティブな人生への第一歩。ちょっと肩の力を抜いて、暮らしの見直し、はじめてみませんか?
新時代の同居論

そんな転機のひとつとして、「同居」も、選択肢に入れてみてはいかがでしょう。私は同居、アリだと思っています。
親の家に子どもが戻ってくるのもよし、逆に子どもの家に親が入るのもよし。大切なのは、「ひとつ屋根の下で、どう過ごすか」。
昔のような「全てを共有して、一緒に暮らす」同居ではなく、それぞれの生活リズムやプライバシーを尊重した〝新しい同居のかたち〞もいまなら選べます。
間取りを変えればいい。
生活の重なり方を、家のかたちから整えていけばいい。
住まいは、世代を超えてつながるもの。そして、今の時代同居は意外にも合理的な選択だったりするのです。
「つくる・なおす・すみこなす」――その中心にあるのは、暮らしを更新し続けるという視点かもしれません。
子育て住宅の教科書 改定
――全172ページ誰でもダウンロード可能
「子育てに配慮した住宅と居住環境に関するガイドライン(改訂版)」(令和7年5月改定)は、安心・快適な子育て住宅実現のための最新視点をまとめた住宅ガイドラインです。改訂版では、従来の内容に加えて、新しい日常や災害、環境配慮といった社会の変化を踏まえた内容が強化されています。以下4つの基本視点に基づいて整理されています。
小さなお子さんがいるご家庭や、これから子育てを始める予定の方、多世代同居(親世代/子世帯)を視野に入れている方におすすめします。
「フラット35」の6割は40歳以上
――30代以下との比率は10年前に比べ逆転
住宅ローンの長期固定金利で知られる「フラット35」。今や申込者の約6a割が40代以上となっています。
2023年度のフラット35申込者の平均年齢は44・3歳。40代・50代・60代以上を合わせた40歳以上の利用者が約6割を占め、30代以下は約4割程度にとどまり、一方、2013年度時点では、30代以下が約6割、40代以上は約4割未満でした。つまり、この10年で世代構成が完全に逆転。
要因は、晩婚化やライフステージの多様化により、「住宅を取得するタイミング」が後ろ倒しになったこと。特に40代以降での住み替えやリノベーション需要が増えていることも背景の一因と思われています。
コンビニも変わった。
——ロング缶おじさんはどこに行った?

かつて、どこの街にも「ロング缶おじさん」がいた。
夕暮れ時になるaと、コンビニの脇にふらっと現れ、ビールや缶チューハイのロング缶を片手に、静かに、そして哀愁を漂わせていたおじさんたちである。
ところが最近、見かけない。どこに行ってしまったのか、ロング缶おじさんたちは。
1つの仮説として、ドラッグストアの進化があるのではないか。今ドラッグストアは、ちょっとしたスーパー医療品店である。酒、つまみ、冷凍食品、様々な日用品に豊富な市販薬もある。しかも安い。ロング缶1本、数円とはいえ安い。この「ついで買い」天国に、おじさんたちは吸い込まれていったのではないだろうか。
ではコンビニは今どうなっているのか?
夜10時以降のコンビニは賑わっている。冷凍食品をいくつも手に取る若者、お弁当を購入して帰宅するサラリーマン、日中は料金支払いの高齢者、そしてタバコ買いに来た風の男性。共通点は、「目的が明確」なこと。かつてのように“なんとなく”立ち寄る空気感は薄れている。
思えば、ロング缶おじさんは、買い物目的ではなく、居場所を求めていたのかもしれない。あの絶妙な距離感、この変化が何を意味するのか、まだ結論は出ない。
きっと私は、現代の街の変化の傍観者なのだろう。ロング缶を持たず。もちろん。